日々雑記 第4話

妹の話


依頼心の強い女が嫌いだ。
自分で行動せず、周りが何とかしてくれるのが当然だと思っている、そういう女。
泣けば許してもらえる、笑えばごまかせる、そう思っている女。
そういう女がそばにいると、こっちにしわ寄せがくるのだ。
そして何故かそういう女は、庇護欲をそそるんだかなんだか、大半の男に受けがいい。
かくして、ずる女は仕事をせず楽をした上、男どもにちやほやされ、
わたしのような自立心旺盛な女は、ずる女の分の仕事まで抱えた上、
男どもに「かわいくない」と鼻白まれる。
まったくもって、納得行かない。

はっきりと「嫌い」と言い切るのは具体的な経験があるからだ。
わたしの側には、物心つく前からそういう女がいた。
察しがつく方はついただろう。
妹だ。
ものごころというものがついた時点ですでに
「わたしこの人いやだ」とはっきり嫌悪の感情があったのだからこれは根深い。
姉妹としての他に同性の競争相手としても、すでにその存在は、
わたしのあらゆる権利を侵害していたのだから仕方ない。
兄弟姉妹のいる方、特に自分が姉兄である方はこの気持ち、よぉく分かって頂けるだろう。
子供の時分、一番憎たらしい相手は自分のきょうだいだ。
年が近いとなおさらである。うちなんて3人姉弟全員年子。
なのに、「お姉ちゃんだから」と言われて3歳児が納得できるか!?
特にすぐ下の妹とは水と油だった。
もとの性格も合わなかったんだろうが、それが姉妹という、逃れられない関係上、
幼児にとってストレスははかりしれない。

妹はすぐ泣いた。自分のわがままが通らないと泣き、かまってもらえなければ泣き、腹が減ると泣いた。
母の言いつけはほぼ全て聞き流し、おつかいだって家の用事だって結局わたしにまわって来た。
小学生の頃なんて、妹がなくしたからと言って、わたしのピアニカ(鍵盤ハーモニカですね)を妹に
寄こせとまで言われたのだ。
同じ時間にわたしも音楽の授業があるから無理だと母に訴えたが、母はひとこと、
「だって(妹が)泣くんだもん。」
これほど打ちのめされたことはなかったね。
当時すでに老成してしまっていたわたしは、大抵のことは譲っていたが(だって抵抗したら
わたしが「意地悪なお姉ちゃん」とののしられるのだ)これには抵抗した。
なんでわたしが妹のために、音痴な音楽教師に叱られねばならないのだ。
案の定、「なんて強情な」と母にののしられたけれど、ここで折れたらわたしがみじめだったのだ。

高校を卒業してわたしは上京し、家族とも、もちろん妹とも離れた。
ホームシックというものにはなったことがない。
家族は大事だし、両親はわたしを心から大事にしてくれる。それは本当だ。
犬猿の仲だった妹とも、距離が離れたら気に障ることもなくなって、たまに電話しても、仲良いものだ。
それでも多少つっこんだ話になると、どうしても火花が散るのだが。
先日、妹が「パソコンを買おうと思って」、と電話口で言った。
何がしたいんだと聞くと「デジカメの動画機能付きの奴を買ったから映像編集と、ネットとメール」と言う。
でもOSという単語も知らず、WindowsとMacの区別も付かず、もちろんCPUやRAMなんて
雲の彼方という人間が、なにが映像の編集か?そして編集しなくてはならない何の映像があるんだ。
だいたいにして妹という人間はFAXすらまともに扱えないのだ。
そんな人間が最新機種を買って何をする!?
しかも雑誌や本で勉強する気もないと言い切りやがった。
きっと彼氏がなんとかすることになるんだろう。気の毒に。

ああ、もう。やっぱりわたしと彼女との間には暗くて深い川があるに違いない。

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