BookReview 第3回



文・獄本野ばら 絵・高橋真琴
「うろこひめ」



「うろこひめ」/獄本野ばら/主婦と生活社

ISBN4-391-13030-0




わたしは美しい姫として生きるかくごを決めたのですよ。
だれにも、かわいそうだなんて、いわせるものですか


同名の小説『鱗姫(小学館文庫)』とはまた違った切り口の大人向け絵本。

絵本と言う形を取っていますが、これは決してメルヘンではありません。
幼い子供には読ませられない、過酷な物語です。

獄本野ばらの独特な語り口はよく「耽美」と評されますが
私はあまり彼の文章にそれを感じたことがありません。
丁寧な文章だな、とか、汚い言葉は使わない作家だな、という印象があるだけです。
巷の「乙女」を目指すお嬢さん方のバイブルとなるのもうなずけます。

ストーリーは、一言で言って残酷です。
そして主人公のお姫様がたどる人生は過酷です。

美醜で区別されることの、優越、残酷、普遍が短い物語の中にきちんと並んで、
その中で、主人公の姫は、顔を伏せることなく毅然として前を向き
決して言葉も態度もひるがえさず、自分の覚悟を貫き通します。
安っぽい同情など微塵も入る余地がないほど、その姿は高潔で高貴です。

妥協を許さず逃げ場も与えない、そんな緊張感を覚える物語ですが不快ではありません。
むしろ残酷で恐ろしい姫の所業を、肯定し、愛し、認めたい、とすら思うのです。

高橋真琴の絵がすばらしくマッチしています。
残酷なものへの恐怖よりも、愛着と尊敬を抱かせる誇り高い物語。
絵本なのでとても短いけれど、痛々しいまでの美しさがあります。
「覚悟」とか「心」とかっていうのはこういう風に使いたいと思うのです。

嶽本野ばらのエキセントリックな外見や発言に敬遠する人もいるでしょうが、一読の価値はあります。



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